「上がらせていただきます」は、仕事を終えて帰るときや、訪問先の建物・部屋に入るときに使われる表現です。上司や取引先に対して失礼にならないか、「お先に失礼します」とどちらが適切なのか、迷った経験がある人もいるのではないでしょうか。
この表現は、文法上ただちに誤りとなる敬語ではありません。ただし、相手の許可や配慮を受けて行動するという意味合いがあるため、退勤時にいつでも使えばよいわけではありません。2026年現在も判断の基本となるのは、文化審議会答申『敬語の指針』が示す敬語の考え方です。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 意味:退勤時には「仕事を終えて先に帰る」、訪問先では「許可を得て中に入る」という意味で使われる。
- 敬語としての正しさ:「上がらせていただきます」は文法上使用できるが、相手の許可や恩恵との関係、場面に応じた使い分けが必要。
- 自然な言い換え:通常の退勤なら「お先に失礼します」、改まった場面なら「失礼いたします」、許可を得て帰る場合は「上がらせていただきます」が候補になる。
【意味を正しく理解】「上がらせていただきます」は退勤時と訪問先で意味が変わる
「上がらせていただきます」を正しく使うには、まず「上がる」という言葉が持つ複数の意味を理解する必要があります。日常会話では同じ表現でも、職場と訪問先では伝えている内容が異なります。
1.退勤時は「仕事を終えて帰る」という意味
職場で使う「上がる」は、勤務や作業を終えることを意味する言い方です。「今日はもう上がります」であれば、「今日は仕事を終えて帰ります」という意味になります。
ここに「させていただきます」を付けると、自分が仕事を終えて帰ることについて、許可や配慮を受けるというニュアンスが加わります。
例えば、上司に早退を認めてもらった場合や、勤務時間の調整について了承を得ている場合には、次のように伝えられます。
「ご配慮いただきありがとうございます。それでは、お先に上がらせていただきます。」
一方、通常の勤務を終え、同僚より先に帰るだけであれば、「お先に失礼します」のほうが簡潔で自然です。「上がる」は職場で通じる慣用的な表現ですが、改まったメールや正式な報告では「退勤する」「本日の業務を終了する」と言い換えることもできます。
2.訪問先では「中に入らせてもらう」という意味
「上がる」には、他人の家などで玄関から室内に入るという意味もあります。そのため、相手から招かれたり、入室の許可を得たりした場面では、「上がらせていただきます」が文字どおりの意味で使われます。
例えば、訪問先で招き入れられたときは、次のように伝えられます。
「ありがとうございます。それでは、お言葉に甘えて上がらせていただきます。」
ただし、取引先のオフィスに入る場面では、「失礼いたします」「お邪魔いたします」のほうが自然なこともあります。「上がらせていただきます」は、相手の家や室内に招かれた状況を連想させるためです。
つまり、言葉そのものだけで正誤を判断するのではなく、何をするのか、相手との関係はどうか、どの程度改まった場面なのかを考えて選ぶことが大切です。
【敬語として正しい?】「上がらせていただく」の文法と二重敬語の疑問
「上がらせていただきます」は、複数の言葉が組み合わさった表現です。丁寧な印象を与えますが、構造を理解すると、どの場面で使うべきかも判断しやすくなります。
「上がる+させる+いただく+ます」の構造
文法上の構成は、次のように整理できます。
- 上がる:退勤する、または室内に入るという行動を表す。
- させる:自分がその行動をすることを認めてもらう、という使役の形を作る。
- いただく:相手から許可や配慮を受けることを、へりくだって表す。
- ます:文末を丁寧にする。
「上がらせていただく」は、「上がる」という自分の行動について、相手の許可や配慮を受けて行うことを表現する形です。文末に「ます」を付けることで、丁寧な言い方になります。
ただし、実際に相手から明確な許可を得ていなければ、必ず誤用になるという単純なルールではありません。文化庁の『敬語おもしろ相談室』では、「させていただく」について、相手側または第三者の許可を受けて行うこと、その行動によって恩恵を受けるという事実や気持ちがあることを、基本的な使用条件として説明しています。また、条件をどの程度満たしているかによって、表現の適切さには差が生じるとしています。
「上がらせていただきます」は二重敬語なのか
「上がらせていただきます」は、複数の丁寧な要素が含まれているため、二重敬語ではないかと疑問に思われることがあります。しかし、この表現は、それだけで二重敬語と判断されるものではありません。
二重敬語とは、基本的に一つの語に同じ種類の敬語表現を重ねることです。例えば、「お帰りになられる」は、「お帰りになる」という尊敬語に、尊敬の意味を持つ「られる」をさらに加えた形で、一般に二重敬語とされます。
一方、「させていただく」は、許可や恩恵を受けて行動することを表す、定着した謙譲表現です。「上がる」に「させていただく」を組み合わせたことだけを理由に、二重敬語とはいえません。
もっとも、文法的に成立することと、その場面で自然に聞こえることは別の問題です。通常の退勤にまで「上がらせていただきます」を多用すると、必要以上に回りくどい印象を与える場合があります。敬語の重なりを心配するよりも、行動の内容と相手への配慮が適切に伝わるかを確認しましょう。
【上司・取引先への伝え方】ビジネスシーンで使える例文と注意点
職場では、相手が上司なのか同僚なのか、取引先なのかによって、自然な言い方が変わります。特に退勤時は、敬語の丁寧さだけでなく、業務の引き継ぎや退勤の了承が必要かどうかも重要です。
上司に退勤を伝える場合
通常の勤務を終えて帰る場合は、「お先に失礼します」で十分です。上司に対して丁寧に伝えたい場合は、「お先に失礼いたします」とすると、より改まった印象になります。
【例文1:通常の退勤】
「本日の業務が終了しましたので、お先に失礼いたします。お疲れさまでした。」
【例文2:早退の許可を得た後】
「早退の件、ご配慮いただきありがとうございます。それでは、お先に上がらせていただきます。」
【例文3:勤務時間の調整について了承を得た後】
「本日は勤務時間を調整いただき、ありがとうございます。必要な引き継ぎも完了しましたので、先に上がらせていただきます。」
ポイントは、早退や勤務時間の変更が必要な場合、単に「上がらせていただきます」と告げるのではなく、事前に相談し、必要な了承を得ておくことです。すでに退勤が決まっている場合でも、職場のルールに従って報告しましょう。
取引先や訪問先で使う場合
取引先への訪問では、入室する場面と、訪問を終えて退出する場面を区別する必要があります。
【例文1:訪問先の室内に招き入れられた場合】
「ありがとうございます。それでは、失礼して上がらせていただきます。」
【例文2:取引先の会議室に入る場合】
「失礼いたします。本日はよろしくお願いいたします。」
【例文3:商談を終えて退出する場合】
「本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。それでは、失礼いたします。」
取引先のオフィスでは、「上がらせていただきます」と言うこと自体が誤りというわけではありません。しかし、一般的な入室や退出のあいさつとしては、「失礼いたします」のほうが状況を選ばず使いやすい表現です。
退勤時のメール・チャットではどう書く?
メールや社内チャットでは、口頭でのあいさつと同じ言葉をそのまま使う必要はありません。文章では、業務の終了や引き継ぎの状況を簡潔に伝えると、相手が内容を把握しやすくなります。
【例文:社内チャット】
「本日の対応は完了しました。残件は共有フォルダにまとめていますので、ご確認をお願いいたします。お先に失礼いたします。」
【例文:上司に早退を報告するメール】
「本日は早退についてご配慮いただき、ありがとうございます。担当業務の引き継ぎを済ませましたので、これより退勤いたします。よろしくお願いいたします。」
メールでは「上がらせていただきます」を無理に使う必要はありません。「退勤いたします」「本日の業務を終了いたします」など、具体的な行動を直接表す言い方も、十分に丁寧です。
【比較表で確認】「お先に失礼します」「失礼いたします」との違い
「上がらせていただきます」「お先に失礼します」「失礼いたします」は、いずれも丁寧な表現ですが、伝える内容には違いがあります。迷ったときは、何を相手に知らせたいのかを基準に選ぶとよいでしょう。
| 表現 | 主な意味・用途 | 適した場面 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 上がらせていただきます | 許可や配慮を受けて退勤する、または室内に入る | 早退の了承を得た後、招かれた家に入るとき | 通常の退勤では回りくどく聞こえる場合がある |
| お先に失礼します | 自分がほかの人より先に退出する | 職場で同僚や上司より先に帰るとき | 取引先への改まった退出では、状況に応じて言い換える |
| お先に失礼いたします | 「お先に失礼します」をより改まった形にした表現 | 上司や目上の人への退勤のあいさつ | 単に退勤を伝える場合は、許可を受けたという意味を必ずしも含まない |
| 失礼いたします | 入室・退出・会話の中断などを丁寧に伝える | 取引先のオフィスへの入室、商談後の退出 | 退勤することを明確に伝えたい場合は、必要に応じて説明を添える |
| 退勤いたします | 勤務を終えて職場を離れることを直接伝える | 業務報告、メール、社内チャット | あいさつの言葉としては、前後に配慮の言葉を添えると自然 |
| お邪魔いたします | 相手の場所に入ることを控えめに伝える | 訪問先の家や事務所に入るとき | 訪問先や相手との関係に合わせて使う |
迷ったら「お先に失礼します」を基本にする
一般的な退勤時には、「お先に失礼します」が最も使いやすい表現です。相手より先に帰ることを明確に伝えながら、許可を受けたかどうかについて余計な意味を加えずに済みます。
上司や目上の人に対しては「お先に失礼いたします」、取引先での退出には「本日はありがとうございました。それでは、失礼いたします」とすれば、場面に応じた丁寧さを保てます。
一方、相手の了承を得て早退する場合や、招待された場所に入る場合には、「上がらせていただきます」が適切に機能します。表現の長さではなく、伝える内容と状況が合っているかを判断基準にしてください。
【自然な言い換え】「上がらせていただきます」を使わないほうがよい場面
敬語は、長く複雑な表現ほど丁寧になるわけではありません。文化庁の『敬語の指針』も、敬語を相手や場面に配慮して選ぶこと、過剰ではなく適度に使うことを基本的な考え方として示しています。
「上がらせていただきます」が不自然になりやすいのは、相手の許可や配慮を強調する必要がない場面です。例えば、通常の勤務を終えただけなのに、毎回「本日は上がらせていただきます」と言うと、必要以上にへりくだった印象になることがあります。
場面別の言い換え表現
次のように、行動の内容に合わせて表現を選ぶと、伝わりやすくなります。
- 通常の退勤:「お先に失礼します」「お先に失礼いたします」
- 勤務終了の報告:「本日の業務を終了いたします」「これより退勤いたします」
- 早退の許可を求める:「本日、所用のため早退してもよろしいでしょうか」
- 早退の了承を得た後:「ご配慮ありがとうございます。お先に失礼いたします」
- 訪問先への入室:「失礼いたします」「お邪魔いたします」
- 招かれた家に入る:「お言葉に甘えて、上がらせていただきます」
- 商談後の退出:「本日はありがとうございました。それでは、失礼いたします」
「失礼いたします」と「お先に失礼します」は同じではない
「失礼いたします」は、相手のいる場所に入るときや、退出するとき、会話を中断するときなど、幅広い状況で使われます。これに対して「お先に失礼します」は、ほかの人より先に退出することを伝える表現です。
そのため、同僚がまだ仕事をしている職場で帰るなら「お先に失礼します」、取引先の会議室から退出するなら「失礼いたします」と使い分けると自然です。どちらも敬語として成立しますが、伝えたい内容が異なります。
「させていただく」を使いすぎないための判断基準
「上がらせていただきます」に限らず、「確認させていただきます」「連絡させていただきます」「説明させていただきます」など、ビジネスでは「させていただく」が頻繁に使われます。
使用する前に、次の2点を確認すると、過剰な敬語を避けやすくなります。
- 相手や第三者の許可・了承を受けて行うことなのか。
- その行動によって、自分が恩恵を受けるという事実や気持ちがあるのか。
両方の条件が当てはまる場合は、「させていただく」が自然に機能しやすくなります。条件が明確でない場合でも、慣用的に受け入れられる表現はありますが、単に丁寧そうだからという理由だけで付け加える必要はありません。
例えば、「資料を確認させていただきます」よりも「資料を確認いたします」のほうが簡潔な場面もあります。相手から確認の依頼を受けているなら「資料を確認し、改めてご連絡いたします」とまとめることもできます。丁寧さと簡潔さの両立を意識することが、自然なビジネス敬語につながります。
【プロの結論】目上の人にも伝わる敬語は、長さより状況との一致で決まる
「上がらせていただきます」は、退勤時にも訪問先にも使える表現ですが、すべての場面で最適というわけではありません。文法的に成立するかどうかだけでなく、相手との関係や行動の目的に合っているかが重要です。
実務で迷ったときは、次の3つの判断基準を使うと、言葉を選びやすくなります。
- 自分の行動を簡潔に伝える:通常の退勤なら「お先に失礼します」、業務報告なら「退勤いたします」を選ぶ。
- 相手の許可や配慮を受けたことを伝える:早退の了承を得た後などは「上がらせていただきます」が候補になる。
- 訪問先での行動を明確にする:入室なら「失礼いたします」、招かれた家に入るなら「上がらせていただきます」など、場所と状況に応じて使い分ける。
また、敬語は相手を尊重するための手段であり、必要以上にへりくだること自体が目的ではありません。文化庁の『敬語の指針』が示す相互尊重の考え方に沿って、相手が内容を理解しやすく、自然に受け取れる言い方を選ぶことが大切です。
【上がらせていただきます】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:「上がらせていただきます」は目上の人や上司に使っても正しいですか?
A1:はい、場面に合っていれば使用できます。例えば、早退の了承を得た後なら「ご配慮ありがとうございます。それでは、上がらせていただきます」と伝えられます。通常の退勤であれば「お先に失礼いたします」のほうが簡潔で自然です。
Q2:「上がらせていただきます」と「お先に失礼します」の違いは何ですか?
A2:「上がらせていただきます」は、許可や配慮を受けて退勤するというニュアンスを含みます。「お先に失礼します」は、自分がほかの人より先に帰ることを伝える表現です。普段の退勤には後者を基本とし、許可や配慮を受けたことを伝えたい場面では前者を使うとよいでしょう。
Q3:「上がらせていただきます」は二重敬語ですか?
A3:この表現自体は、通常、二重敬語とは判断されません。「させていただく」は、許可や恩恵を受けて行うことを表す定着した謙譲表現です。ただし、文法上使えるからといって、あらゆる場面で自然になるわけではありません。通常の退勤では「お先に失礼します」などの言い換えも検討してください。
まとめ:失敗しない「上がらせていただきます」の使い分け
「上がらせていただきます」は、退勤時には「仕事を終えて帰る」、訪問先では「中に入る」という意味で使われる表現です。敬語として一律に誤りではありませんが、相手の許可や配慮との関係、場面に合った自然さを考えて使う必要があります。
通常の退勤では「お先に失礼します」、上司に対する改まったあいさつでは「お先に失礼いたします」、取引先での入退室では「失礼いたします」が使いやすい表現です。早退の了承を得た場合や、招かれた場所に入る場合には「上がらせていただきます」も適切な選択肢になります。
大切なのは、敬語を長くすることではなく、相手への敬意と自分の意図を正確に伝えることです。場面に合った表現を選べば、上司にも取引先にも、無理のない丁寧なコミュニケーションができます。 (出典: 上がらせていただきます(Yahoo!ニュース))