2026年現在も読み継がれる山崎豊子の『華麗なる一族』は、銀行家一族の権力闘争と父子の悲劇を描いた長編経済小説です。万俵家の総帥・万俵大介と、鉄鋼業の未来に情熱を注ぐ長男・万俵鉄平。2人の対立は、単なる親子げんかではありません。銀行の生き残りをかけた合併戦略、出生をめぐる疑念、政財界に広がる縁故関係が複雑に絡み合い、一族を破滅的な結末へと導いていきます。
1974年の映画版とテレビドラマ版、木村拓哉主演の2007年版、中井貴一主演の2021年版では、同じ原作でも人物の描き方や物語の焦点が異なります。鉄平の血液型が意味するもの、大介が息子を追い詰めた理由、「小が大を喰う合併」の仕組み、実話モデルの真相まで、原作と映像作品の違いを踏まえて整理します。なお、後半には原作の結末に関する重大なネタバレがあります。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- あらすじ:阪神銀行頭取の万俵大介と、阪神特殊製鋼の経営を担う長男・鉄平が、融資と銀行合併をめぐって対立する。
- 結末の真相:鉄平の死後に判明する血液型が、大介の長年の思い込みを覆し、悲劇の本質を浮き彫りにする。
- 歴代映像化の違い:1974年映画版、同年のテレビドラマ版、2007年TBS版、2021年WOWOW版は、主演俳優や物語の描写にそれぞれ特徴がある。
【あらすじ】華麗なる一族とは?山崎豊子が描いた権力と愛憎
『華麗なる一族』は、作家・山崎豊子による長編経済小説です。『週刊新潮』で1970年3月から1972年10月まで連載され、1973年に新潮社から上・中・下巻の全3巻で刊行されました。その後、1980年に新潮文庫版が発売されています。
『白い巨塔』『沈まぬ太陽』などでも知られる山崎豊子は、社会の巨大な組織に潜む権力構造や、人間の欲望を鋭く描いてきた作家です。本作でも、銀行、鉄鋼会社、官僚、政治家、財界人という複数の世界が交差し、個人の人生が組織の論理に翻弄される様子が描かれます。
物語の舞台は高度経済成長期の関西
主人公の万俵大介は、神戸に本店を置く阪神銀行のオーナー頭取であり、万俵財閥を率いる実力者です。銀行経営に長け、政治家や官僚、財界人とのつながりを利用して勢力を拡大してきました。
大介の長男・鉄平は、万俵家の主要企業である阪神特殊製鋼の専務取締役です。技術者としての誇りを持ち、会社の将来を切り開くため、新たな高炉の建設に挑みます。しかし、大規模な設備投資には莫大な資金が必要です。鉄平はメインバンクである阪神銀行に融資を求めますが、父の大介は支援に消極的な態度を取ります。
その背景には、経営上の計算だけでは説明できない、父子の深い確執がありました。大介は、鉄平が自分の実子ではなく、実父・敬介と妻・寧子の間に生まれた子ではないかと疑っています。この疑念が、鉄平に対する大介の冷酷な態度を左右していきます。
銀行再編が万俵家の運命を変える
物語のもう一つの軸は、金融業界の再編です。大蔵省が都市銀行の再編を進めるなか、阪神銀行は規模の大きな銀行に吸収される危険に直面します。大介は銀行を守るため、自らが主導権を握れる形で上位の銀行との合併を実現しようと画策します。
ここで重要になるのが「小が大を喰う合併」という構想です。通常、規模の小さな銀行が大きな銀行に吸収されれば、経営の主導権を失う可能性があります。しかし大介は、相手銀行の経営上の弱点と内部対立を利用し、規模では劣る阪神銀行が合併後の主導権を握る道を探ります。
一方、鉄平にとって高炉建設は、会社の成長だけでなく、自分の信念を証明するための事業でもあります。父が守ろうとする銀行の論理と、息子が追い求める製造業の理想が衝突することで、親子の対立は取り返しのつかない段階へと進んでいきます。
【相関図・家系図】万俵大介と鉄平を取り巻く人物関係
『華麗なる一族』を理解するうえで欠かせないのが、万俵家の血縁関係と、政財界に広がる婚姻関係です。登場人物は家族として結びついているだけでなく、それぞれが銀行経営、官僚組織、政治、製造業における利害を背負っています。
万俵家の基本的な家系図
中心となる人物関係を簡潔に整理すると、次のようになります。
万俵敬介(大介の父)
└ 万俵大介 + 万俵寧子
├ 万俵鉄平 + 早苗(長男・妻)
│ └ 太郎(長男)
├ 万俵銀平(次男)
├ 万俵一子(長女)+ 美馬中
├ 万俵二子(次女)
└ 万俵三子(三女)
この家系図に加えて、大介の愛人である高須相子が万俵家に同居しています。相子は単なる愛人ではなく、家の内側から一族を動かす重要人物です。大介と協力し、娘たちを有力者の血縁につながる相手と結婚させることで、万俵家の政財界における影響力を拡大しようとします。
主要人物の役割と対立関係
万俵大介:阪神銀行の頭取で、万俵家の総帥。銀行を守り、一族の権力を維持することを最優先に考えます。合理的な経営者である一方、家庭では血縁への疑念にとらわれ、鉄平に冷酷な仕打ちをします。
万俵鉄平:大介の長男で、阪神特殊製鋼の専務。高炉建設によって会社を発展させようとする技術者です。父の資金援助を必要としながらも、経営者としての信念を曲げられず、次第に父と対立します。
万俵寧子:大介の妻で、鉄平や銀平らの母。夫の疑念と家族の確執に苦しみます。鉄平の出生をめぐる問題では、悲劇の核心に関わる人物です。
高須相子:大介の愛人で、万俵家の内情を熟知する存在。政略結婚や家族内の力関係を調整し、一族の勢力拡大に深く関与します。
万俵銀平:大介の次男で、阪神銀行に勤めています。兄の鉄平とは異なる立場から銀行と家族の問題に向き合い、父子の対立を映し出す役割を担います。
美馬中:大介の長女・一子の夫で、大蔵省の官僚。官僚組織と銀行経営をつなぐ人物であり、万俵家が築く政財界のネットワークを象徴します。
万俵家の問題は、父と息子だけの問題ではありません。大介が娘たちの結婚まで一族の戦略に組み込むことで、家族関係そのものが政治や経済の道具になっていきます。この構造を押さえると、相子の存在や鉄平の孤立、銀平の立場も理解しやすくなります。
【対立理由と合併の仕組み】なぜ大介は鉄平を追い詰めたのか
万俵大介と鉄平の対立には、経営戦略と家族への感情という二つの要因があります。どちらか一方だけでは、物語の悲劇は説明できません。
理由1:高炉建設に必要な巨額融資
鉄平が進める高炉建設は、阪神特殊製鋼の競争力を高めるための大型投資です。成功すれば会社の発展につながりますが、建設費用が膨らんだり、操業が計画どおりに進まなかったりすれば、経営を揺るがす危険があります。
鉄平はメインバンクの阪神銀行に資金援助を求めます。しかし、大介は銀行の財務基盤と将来の合併戦略を優先し、融資に慎重な姿勢を取ります。銀行にとって融資は、顧客企業を支援する手段であると同時に、回収不能の危険を引き受ける判断でもあります。
ただし、大介の判断は一般的な融資審査だけではありません。彼は鉄平の事業を支援しないことで、自身の銀行経営に有利な状況を作ろうとします。親子の関係が、金融機関と融資先企業の利害関係に重なっているのです。
理由2:鉄平は実父・敬介の子なのではないかという疑念
大介は、鉄平が自分の父・敬介と寧子の間に生まれた子ではないかと疑っています。敬介への憎しみや妻への複雑な感情が、鉄平への態度に影響しているのです。
鉄平本人は、父から十分に認められたいという思いを抱きながら、仕事を通して自分の価値を証明しようとします。しかし、大介は出生への疑念を捨てられず、息子の努力や理想を素直に受け入れられません。
ここに本作の皮肉があります。大介は血縁を重視して一族の結束を守ろうとする一方、その血縁を誤解したまま、実の息子を追い詰めてしまうのです。
理由3:「小が大を喰う合併」は何を意味するのか
大介の合併構想を理解するには、銀行の規模と経営の主導権を分けて考える必要があります。銀行の規模が大きくても、内部の経営対立や資金面の不安を抱えていれば、合併交渉で必ずしも優位に立てるとは限りません。
作品では、阪神銀行が大同銀行との合併を目指します。大介は大同銀行の内部事情を利用し、綿貫専務らと連携して経営の主導権を握るための策を進めます。阪神特殊製鋼への融資問題も、この構想と切り離せません。
鉄平が率いる阪神特殊製鋼が経営破綻に追い込まれれば、同社に資金を提供していた大同銀行も経営上の打撃を受けます。大介はこの状況を利用し、大同銀行の内部対立を通じて合併を有利に進めようとします。
最終的に、物語では阪神銀行と大同銀行が合併し、東洋銀行が発足します。大介は頭取に就任し、自らが主導する「小が大を喰う合併」を成し遂げます。しかし、銀行の勝利と引き換えに、鉄平の人生は取り返しのつかない結末へ向かいます。
この構想は、単に小さな銀行が大きな銀行を買収する話ではありません。経営権、情報、人事、融資、官僚との関係を組み合わせ、合併後の支配権を確保しようとする権力闘争なのです。
【結末ネタバレ】鉄平の最期と血液型の真相
ここからは原作の結末に触れます。物語の核心は、鉄平が亡くなったあとに明らかになる血液型の事実です。銀行合併を成功させた大介が、最後に何を知ることになるのか。それが『華麗なる一族』という題名に潜む皮肉を際立たせます。
阪神特殊製鋼の破綻と鉄平の孤立
高炉建設は、鉄平が夢見た会社の未来を象徴する事業でした。しかし、計画をめぐる問題や経営上の困難が重なり、阪神特殊製鋼は会社更生法の適用を申請する事態に陥ります。鉄平は経営の責任を問われ、会社での立場も失っていきます。
鉄平は、父が自分の会社を見捨てたことに疑念を抱きます。やがて、阪神銀行の融資方針と大同銀行との合併構想が結びついていたことを知り、大介の行動を追及しようとします。
しかし、会社の経営権を失った鉄平にとって、父との争いは圧倒的に不利なものとなります。自らの理想を実現する道も、父に認められる可能性も失われ、精神的に追い詰められていきます。
鉄平はなぜ自ら命を絶ったのか
鉄平の最期は、会社の破綻だけを理由に説明できるものではありません。高炉建設に懸けた夢が失われたこと、父との対立が決定的になったこと、自分の出生をめぐる疑念に苦しんだことが重なっています。
大介は鉄平に対し、実父は敬介ではないかという疑念を背景に、父子の関係を冷酷に扱います。鉄平は父の愛情を求めながらも、その思いが届かないまま追い詰められます。
原作の結末では、鉄平は猟銃で自ら命を絶ちます。大介が銀行の合併を成し遂げた一方で、息子を失うという悲劇が起きるのです。経済的な成功と人間としての幸福が、必ずしも両立しないことを示す結末です。
万俵鉄平の血液型は何型だったのか
物語の当初、鉄平はA型だと考えられていました。しかし、死後の検査で判明した血液型はB型でした。この事実によって、大介が長年抱いていた出生への疑念は根底から覆されます。
作中の設定では、大介はAB型、寧子はO型、敬介はA型です。AB型の父親とO型の母親からは、遺伝の組み合わせによってA型またはB型の子が生まれる可能性があります。一方、A型の父親とO型の母親からは、通常のABO式血液型の遺伝ではB型の子は生まれません。
そのため、鉄平のB型という検査結果は、敬介が実父であるという大介の疑念を否定する手がかりになります。大介は、自分と寧子の実子だった鉄平を、誤った思い込みによって冷遇してきたことを知るのです。
ただし、現実の医学では、ABO式血液型だけで親子関係を確定することはできません。血液型は特定の親子関係を否定する材料になる場合がありますが、親子関係を確定するにはDNA型鑑定など、別の検査が必要です。作品の血液型の仕掛けは、あくまで物語上の出生の謎を解く装置として理解するのが適切です。
血液型の真相が示す、大介の最大の過ち
鉄平の死後に真実を知った大介は、息子を失った現実と、自分の判断が招いた悲劇に直面します。銀行経営の面では大きな成果を手に入れたものの、家族を守るという点では決定的な失敗を犯したのです。
この結末が強く印象に残るのは、出生の秘密そのものよりも、大介が自らの疑念を確かめようとせず、それを鉄平への仕打ちの根拠にしてしまった点にあります。鉄平が実子だと判明した時点で、過去の言動を取り消すことはできません。
鉄平の死は、大介の野望を打ち砕くものではありません。むしろ、彼が望んだ銀行の成功が実現した瞬間に、家族のなかで取り返しのつかないものを失った事実が明らかになる。その構造こそが、本作の悲劇性を生み出しています。
【歴代キャスト比較】1974年映画版・テレビドラマ版・2007年版・2021年版の違い
『華麗なる一族』は、1974年の映画化とテレビドラマ化を経て、2007年にTBS、2021年にWOWOWで再び映像化されました。映像化のたびに時代背景や演出、人物の見せ方が変わっており、どの作品から見るかによって印象も異なります。
| 作品 | 主なキャスト | 作品の特徴 |
|---|---|---|
| 1974年映画版 | 大介:佐分利信 鉄平:仲代達矢 寧子:月丘夢路 相子:京マチ子 | 山本薩夫監督による上映時間211分の大作。銀行、政財界、万俵家の愛憎を映画ならではのスケールで描く。 |
| 1974年テレビドラマ版 | 大介:山村聡 鉄平:加山雄三 寧子:久我美子 相子:小川真由美 | NET(現テレビ朝日)系で1974年10月から1975年3月まで放送。26回にわたって人物関係や金融界の攻防を描いた。 |
| 2007年TBS版 | 大介:北大路欣也 鉄平:木村拓哉 寧子:原田美枝子 相子:鈴木京香 | 全10話。鉄平の情熱と父子の葛藤を前面に押し出し、銀行再編と家族の悲劇を力強く描いた。 |
| 2021年WOWOW版 | 大介:中井貴一 鉄平:向井理 寧子:麻生祐未 相子:内田有紀 | 全12話。銀行経営と政財界の駆け引きをじっくり描き、組織の論理と一族の人間関係を掘り下げた。 |
1974年映画版:実力派俳優が描く重厚な人間ドラマ
1974年1月26日に公開された映画版は、山本薩夫監督、山田信夫脚本による作品です。万俵大介を佐分利信、鉄平を仲代達矢、寧子を月丘夢路、相子を京マチ子が演じています。
上映時間は211分。金融界の駆け引きだけでなく、家族の内部に潜む秘密や、上流社会の権力関係までを大きなスケールで描いています。映画版を選ぶ最大の理由は、限られた上映時間のなかに凝縮された重厚な演技と、社会派映画としての力強さです。
1974年テレビドラマ版:長期シリーズで描く万俵家
同年のテレビドラマ版は、NET(現在のテレビ朝日)系で1974年10月1日から1975年3月25日まで放送されました。全26回のシリーズで、山村聡が大介、加山雄三が鉄平、小川真由美が相子を演じています。
映画版とは異なり、複数回にわたるテレビシリーズでは、万俵家の人間関係や銀行をめぐる交渉を時間をかけて追うことができます。1974年の映画とテレビドラマは同じ年の映像化ですが、別の作品として区別する必要があります。
2007年TBS版:木村拓哉の鉄平と北大路欣也の大介
2007年版は、TBS開局55周年記念作品として制作され、2007年1月14日から3月18日まで全10話が放送されました。鉄平を木村拓哉、大介を北大路欣也、相子を鈴木京香、銀平を山本耕史、寧子を原田美枝子が演じています。
この版の特徴は、鉄平を物語の中心に据え、理想に向かって進む人物と、冷徹な経営者である父との対立を強く打ち出したことです。鉄平が製造業の現場で抱く信念や、家族に認められたいという思いが、視聴者に伝わりやすい構成になっています。
TBSの番組カタログでは、同作について関東地区23.9%、関西地区30.4%の平均視聴率を記録したと紹介されています。大きな注目を集めた作品であり、2007年版をきっかけに原作やほかの映像化作品に関心を持った人も少なくありません。
2021年WOWOW版:中井貴一が演じる大介を軸にした群像劇
2021年版は、WOWOW開局30周年記念作品として制作され、4月18日から7月11日まで全12話が放送されました。大介を中井貴一、鉄平を向井理、銀平を藤ヶ谷太輔、寧子を麻生祐未、相子を内田有紀が演じています。
大介を中心とする銀行経営の戦略や、政財界に広がる利害関係を丁寧に追えるのが特徴です。鉄平の高炉建設と大介の合併構想が並行して描かれることで、親子の確執が個人の感情だけではなく、企業経営の構造的な問題と結びついていることが見えやすくなっています。
本作は東京ドラマアウォード2021の連続ドラマ部門で優秀賞を受賞しました。重厚な企業ドラマを見たい人や、原作の経済小説としての側面を映像で味わいたい人に向いています。
どの映像化作品から見るべきか
父子の感情的な対立を中心に楽しみたいなら、鉄平を前面に押し出した2007年版が入り口として適しています。銀行経営や政財界の駆け引きに注目するなら、2021年版が有力な選択肢です。映画としての重厚な演技とスケールを求める人には1974年映画版、当時のテレビドラマの演出や俳優陣に関心がある人には1974年テレビドラマ版が向いています。
ただし、原作と映像化作品は同一ではありません。特に2007年版では鉄平の人物像や父子の直接対決が強調されるなど、ドラマとしての演出が加わっています。作品ごとの違いを理解したうえで比較すると、同じ結末が異なる印象を与える理由も見えてきます。
【実話モデルの真相】華麗なる一族は実在の銀行や一族がモデルなのか
『華麗なる一族』を読む際によく浮かぶ疑問が、「万俵家や阪神銀行には実在のモデルがいるのか」という点です。作品に登場する銀行再編や企業間の力関係が具体的に描かれているため、実際の金融界を題材にしているように感じられます。
実際の金融界を思わせるリアリティ
新潮社の作品紹介では、本作は銀行の合併をめぐる経済小説として紹介されています。また、山崎豊子全集には『華麗なる一族』の「取材ノート」も収録されています。こうした資料からも、作者が金融界の制度や企業経営を作品の重要な土台として扱っていたことがうかがえます。
作品の舞台となる高度経済成長期には、企業の設備投資や資金調達、銀行間の競争が経済の発展を支えていました。銀行の合併や再編は、金融機関の規模だけでなく、企業への融資や経営の主導権にも関わる問題です。本作は、そうした制度的な力関係を、万俵家の物語を通じて描いています。
実在のモデルと創作上の人物は区別が必要
阪神銀行や大同銀行、東洋銀行は作品上の名称です。物語に描かれた銀行の合併構想や人物関係を、そのまま実在の銀行や経営者の事実として扱うことはできません。
現実の金融界を参考にした作品であることと、登場人物が実在の人物を一対一でモデルにしていることは別の問題です。万俵大介や鉄平についても、作中の人物像と特定の実在人物の経歴を、そのまま同一視するのは適切ではありません。
作品のリアリティは、実在の人物をそのまま描いたことだけに由来するものではありません。銀行が融資を通じて企業に影響を与える構造、合併によって経営権が移動する仕組み、政財界の人脈が意思決定に関わる状況など、現実の制度に通じる要素を物語として組み立てた点にあります。
2026年に読むからこそ見える作品の本質
現代の読者が本作を読むとき、銀行の合併だけに注目すると、物語を過去の金融史として捉えがちです。しかし、作品の核心は、組織の存続や経営上の成功が、そこで働く人々や家族の幸福を必ずしも保証しないという問題にあります。
大介は銀行の将来を守ろうとし、鉄平は製造業の未来を切り開こうとします。2人とも自分の信じる道を進みますが、互いの価値観を理解することができません。その結果、銀行の成功と家族の破綻が同時に起きます。
この構図は、企業の経営判断、組織内の権力関係、親子のコミュニケーションという複数の問題を一つの物語に結びつけています。『華麗なる一族』が経済小説であると同時に、時代を超えて読まれる人間ドラマでもある理由です。
【プロの結論】華麗なる一族を深く理解するための3つの視点
『華麗なる一族』を単なる富豪一族の愛憎劇として読むと、銀行合併や血液型の謎が別々のエピソードに見えてしまいます。物語を一つの構造として理解するには、次の3点を押さえることが重要です。
1. 銀行の成功と家族の幸福は別の問題である
大介は銀行を守るために緻密な戦略を練り、最終的に合併を実現します。しかし、その成功は鉄平の救済にはつながりません。経営上の目標を達成する能力と、身近な人との関係を守る能力は別物であるという点が、本作の第一の教訓です。
2. 思い込みが重大な意思決定をゆがめる
大介は鉄平の出生を疑い、その疑念を父子関係の判断に持ち込みます。鉄平の血液型が誤解を覆したときには、すでに取り返しのつかない事態が起きていました。事実を確認せず、自分の感情を判断の根拠にしてしまう危うさが、血液型の謎を通じて描かれています。
3. 合併の勝敗だけでは物語の全体像は見えない
「小が大を喰う合併」は、大介が経営者として成功したことを示します。しかし、鉄平の夢や家族の崩壊まで含めて考えれば、その成功には深刻な代償があります。経済小説としての醍醐味は、銀行の勝敗だけでなく、その決定が人間の人生に何をもたらすかまで描き切っている点です。
読む作品を選ぶ際も、自分が何を知りたいかを基準にすると理解が深まります。家族の悲劇や鉄平の人物像に注目するなら2007年版、経済や組織の論理に注目するなら2021年版、作品の成立した時代の映画表現に関心があるなら1974年映画版が適しています。原作小説を読むと、映像作品で強調された部分と、物語全体に流れる経済的・社会的なテーマを比較できます。
【華麗なる一族】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:華麗なる一族の原作は誰が書いた小説ですか?
A1:山崎豊子による長編経済小説です。1970年3月から1972年10月まで『週刊新潮』で連載され、1973年に新潮社から全3巻で刊行されました。
Q2:万俵鉄平の本当の血液型は何型ですか?
A2:作中ではB型です。当初はA型だと考えられていましたが、鉄平の死後にB型と判明します。この結果によって、大介が抱いていた「鉄平は敬介の子ではないか」という疑念が覆されます。
Q3:万俵大介と鉄平はなぜ対立したのですか?
A3:鉄平が進める高炉建設への融資をめぐる経営上の対立に加え、大介が鉄平の出生を疑っていたことが大きな理由です。銀行の合併戦略と父子の感情的な確執が重なり、対立が深刻化します。
Q4:華麗なる一族の結末で鉄平はどうなりますか?
A4:阪神特殊製鋼の破綻や父との対立によって追い詰められた鉄平は、自ら命を絶ちます。その死後、血液型の真相が判明し、大介は自分の思い込みが生んだ悲劇と向き合うことになります。
Q5:1974年の映画版とテレビドラマ版は同じ作品ですか?
A5:同じ原作をもとにした別作品です。映画版は山本薩夫監督、仲代達矢主演の上映時間211分の作品で、1974年テレビドラマ版は山村聡、加山雄三らが出演し、1974年10月から1975年3月まで全26回で放送されました。
Q6:華麗なる一族は実話ですか?
A6:実際の金融界を思わせる制度や経済的な力関係が描かれた小説ですが、作品上の銀行や登場人物を、実在の銀行や人物とそのまま同一視することはできません。実際の金融界を参考にした経済小説として読むのが適切です。
まとめ:華麗なる一族の結末が今も問いかけるもの
『華麗なる一族』は、銀行家一族の権力闘争を描きながら、組織の成功と個人の幸福が一致しない現実を浮き彫りにした作品です。万俵大介は阪神銀行を守り抜くために合併を進めますが、その過程で長男・鉄平を追い詰め、最終的に取り返しのつかない悲劇を招きます。
鉄平の血液型がB型だと判明する結末は、出生の謎を解くだけではありません。血縁を重視した大介が、血縁についての誤った思い込みによって実の息子を苦しめたという、作品最大の皮肉を示しています。
1974年映画版、同年のテレビドラマ版、2007年TBS版、2021年WOWOW版は、それぞれ異なる演出でこの物語を描いています。鉄平の生き方に共感するか、大介の経営戦略に注目するか、あるいは一族を取り巻く政財界の構造に関心を持つかによって、作品の印象も変わるはずです。
銀行の合併という経済的な勝利と、家族の崩壊という個人的な敗北。その両方を描いたことに、『華麗なる一族』の本質があります。結末を知ったうえで読み返すと、大介の判断や鉄平の言動に込められた意味が変わり、物語の悲劇性がいっそう鮮明になります。
主な参考資料:新潮社『華麗なる一族』書誌・作品紹介、山崎豊子全集の作品関連資料、TBS Program Catalog、TBS・BS-TBSの番組情報、WOWOW公式番組情報、映画.comの作品情報。 (出典: 華麗なる一族(Yahoo!ニュース))